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東京地方裁判所 平成7年(ワ)24904号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金五億九五〇〇万円及びこれに対する平成八年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  主位的請求及び予備的請求のうち前項を超える請求部分を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

理由

一  主位的請求に係る請求原因事実について

請求原因1の事実は、《証拠略》により、同2の事実は、《証拠略》により、同3の事実は、《証拠略》により、同4の事実は、《証拠略》により、同5の事実は、《証拠略》により、同6の各事実は、《証拠略》により、それぞれ認めることができる。

二  抗弁1について

1  抗弁1(一)の事実について、検討する。

(一)  商法二六〇条二項二号に規定する多額の借財に該当するか否かについては、当該借財の額、その会社の総資産及び経常利益等に占める割合、当該借財の目的及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断されるべきである(最高裁平成五年(オ)第五九五号同六年一月二〇日第一小法廷判決・民集四八巻一号一頁参照)。

本件保証予約は、前記のとおり、原告の請求によって被告が原告に対して保証債務を負担することを内容とするものであり、借財に当たるということができるから、進んで、右保証が借財として多額であるか否かについて、検討する。

《証拠略》によれば、(1)被告は、東京証券取引所第一部上場会社であるが、一方、ツムラ商事は、昭和六〇年九月、被告の津村代表取締役を代表取締役とし、本店を被告の本社所在地である東京都千代田区二番町一二-七として、被告が一〇〇パーセント出資して設立され、平成四年一〇月に津村代表取締役が代表取締役を退いた後も、同人が同社の取締役に、被告の古屋専務が監査役にそれぞれ就任していること、(2)本件融資は、ツムラ商事が、被告の創立一〇〇周年記念事業の一環として、被告の製造に係る小柴胡湯を仕入れてフィリピンに向けて輸出する取引を行うに当たり、その仕入資金に充てられるものであること、(3)被告の平成五年三月三一日現在における資本金は一二八億九五九七万八二〇〇円、総資産合計額は一九三六億七九〇〇万円、負債合計額は一三二八億三一〇〇万円、平成四年四月から翌五年三月までの経常利益は四〇億五〇〇〇万円であり、本件融資額の占める割合は、それぞれ七・七五パーセント、〇・五一パーセント、〇・七五パーセント、二四・六パーセントに当たること、(4)被告の取締役会規則において、取締役会の決議を要する事項として、一件五億円以上の債務保証及び担保権の設定が掲げられていること、(5)原告においても本店と支店の決裁の区分は融資額一億円が基準とされていることを認めることができ、これらの事情を併せて考慮すれば、本件保証予約は、被告にとって多額の借財に当たるということができる。

(二)  《証拠略》によれば、被告において、本件保証予約を締結するにつき取締役会決議を経ていないことが認められる。

2  抗弁1(二)の事実について、検討する。

(一)  同抗弁について判断するに当たり、本件保証予約に至る経緯について、検討する。

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告東京支店の業務課長であった訴外向井克彦(以下「向井課長」という。)は、かねてからの知り合いで、保険代理店、不動産取引及び経営コンサルタント等を営む訴外赤松紀三(以下「赤松」という。)から、ツムラ商事が融資を希望しているとの連絡を受け、同人からツムラ商事の平成三年度及び同四年度の法人税確定申告書並びに帝国データバンク作成の調査報告書を受け取った。

ツムラ商事の平成四年四月一日から翌五年三月三一日事業年度分の確定申告書の同族会社の判定に関する明細書には、判定基準となる株主(社員)及び同族関係者として「株式会社ツムラ」、株式数又は出資金額として「1200」と記載され、右の調査報告書では、大株主及び持株数として「(株)ツムラ 全株 1200株」と、役員の備考欄で取締役「津村昭」について「(株)ツムラ代表」、取締役「古屋修身」について「(株)ツムラ社長室長兼財務部長」と記載されている。

(2) 向井課長は、平成六年一月二一日、赤松及び原告東京支店の支店長代理邨生哲次郎(以下「邨生支店長代理」という。)と共に、ツムラ商事の本社を訪問し、同社の伊東平吉専務取締役(以下「伊東専務」という。)及び河合取締役と面談して、伊東専務から、被告においてその前身である津村順天堂の創業一〇〇周年を記念する事業を計画していること、ついてはツムラ商事においてその事業の一翼を担うための資金として約一〇億円を必要とするとして、被告の保証を条件に一〇億円の融資を依頼された。その際、伊東専務及び河合取締役は、被告において従業員の名刺等に使用されているのと同じ十字型のマーク及び「自然と健康を科学する」との文言が記載された名刺を交付した上、ツムラ商事が被告の一〇〇パーセント子会社であること、被告の津村代表取締役が被告の創業者の子孫でツムラ商事の設立後平成四年一〇月までの間その社長を務め、その後同人の義弟である柴田紘次が社長となった後もツムラ商事の取締役を兼務していること、被告の古屋専務が同月までツムラ商事の取締役で、その後監査役に就任していること、伊東専務が被告のアルゼンチン支社長をしていたこと等の説明を受けた。

(3)その後も、向井課長は、随時、伊東専務及び河合取締役らに説明を求め、同人らから「営業活動について」と題する書面のほか、被告の作成に係る「フィリピン小柴胡湯導入の件」と題する書面及び「フィリピン販売代理店契約書の概要」と題する書面の交付を受けた。右の「営業活動について」と題する書面では、ツムラ商事が被告の系列会社であり、不動産管理部門において被告の研修所、寮等の用地の選定等の業務を、広告及び情報部門において被告の広告宣伝及び情報収集の業務を、代理店部門において被告の売上の一五パーセントから二〇パーセントを目標に販売代理店としての業務を推進することなどが記載され、「フィリピン小柴胡湯導入の件」と題する書面では、フィリピンUDMC(医師連合)から、ツムラ商事の柴田社長の同席のもとで小柴胡湯の導入に関し説明がされたこと、その販売チャネルとして被告からツムラ商事を通じてフィリピン側に販売されることが記載され、「フィリピン販売代理店契約書の概要」と題する書面には、契約当事者として、製造者を被告、輸出者をツムラ商事、輸入販売代理店をV12CARRA PHARMA、IMC、輸出商品として医療用小柴胡湯、その他の被告の商品については右当事者がその取扱について同意した場合に行うことが記載されているが、向井課長は、これらの書面に基づき、同人らから、前記の記念事業として、総額九五億円の資金を要し、商事部門において、被告からその製造する漢方薬を仕入れてフィリピンに輸出する業務を担当することとして手続が進められていること、代理店業務部門においては、被告の代理店関係経費が多額に上ることから、現在契約しているもののうち約三分の一の代理店に代わって、被告の売上の一五パーセントから二〇パーセントを担当すること等の説明を受けた。その際、同人らは、被告の平成五年度有価証券報告書でツムラ商事が被告の関係会社ではないように表したことについて、右の業務を実現する必要上、右の業務方針を代理店及び取引銀行である訴外株式会社東京三菱銀行に知られるのを回避するためであると話した。

なお、ツムラ商事の平成四年度決算報告書によれば、売上高は二一三八万余円、経常損失は一〇九〇万余円、欠損金は一六六一万余円である。

(4) 向井課長は、交付された資料及び自ら入手した被告の平成五年度有価証券報告書をもとに企業分析を行った結果、被告により保証がされるのであれば、ツムラ商事に対して約一〇億円を融資することは可能であると判断した。

そこで、向井課長は、ツムラ商事に対し、被告の保証書を差し入れてもらうことができるか否かを問い合わせたところ、ツムラ商事から、被告が保証をすると有価証券報告書に記載しなければならなくなることを理由に、被告から当該主債務の履行に遺漏がないようにツムラ商事に対する経営指導に万全を期す旨の念書を入れるか、あるいは保証予約に留めてほしい旨の要望があったため、原告における所定の保証予約念書に被告の津村代表取締役が記名捺印し、印鑑証明書を添えて提出してもらうこととした。さらに、向井課長は、原告においては、株式会社が保証人となる場合には、原則として、当該会社の取締役会の承認をとり、その承認につき取締役会議事録の謄本、抄本又は議事録のコピーにより確認するよう指導されていたことから、伊東専務に対し、被告がツムラ商事の債務の保証に係る取締役会の決議につき、議事録によって確認させてほしい旨申し入れたところ、同人から、そのような事実がないのに、被告の社内規定によって、その取締役会の議事録を閲覧させ、又はその謄本等を交付することが禁止されており、他の取引銀行との間でも議事録を見せることなく処理しているとの返答を受けた。そこで、向井課長は、取締役会の議事録の徴求を免除することにつき、原告の顧問弁護士原田昇に相談した結果、その議事録によって確認がとれなくとも、保証念書を入れてくれれば、信用してよいのではないかとの助言を受けたこともあり、被告の社内規定等について、格別調査することなく、議事録を徴求することもなく、保証予約念書の提出を受けるに留めることとした。

(5) その後、平成六年二月一四日、向井課長は、議事録徴求免除との条件で貸出禀議書を起案して支店長の承認を得た上、向井課長の作成に係るツムラ商事及び被告の信用調査書、被告の比較貸借対照表及び比較損益計算書のほか、ツムラ商事から交付を受けた各種資料、前記の被告の有価証券報告書及びツムラ商事の調査報告書を添付して、原告本店に提出した。なお、右貸出禀議書の申請後承認額の欄には「1000」と、保全状況の欄には「保証予約念書(1000)」「差引 △1000」と記載され、稟議補充用紙には、平成六年三月における予算として、営業利益につき六九〇〇万円、経常利益につきマイナス四九〇〇万円と記載されているほか、「保証予約、議事録徴求免除について」と題して、「親会社が100%出資の子会社の債務を保証する行為は」「利益相反にあたらないので、商法265条の承認決議も不要である」「今回ツムラ取締役会は開かれるが、社内規定により議事録は社外公表しない」との記載がある。

(6) 向井課長は、翌二五日に本店の決裁が下りたことから、伊東専務に対し、同年二月中に貸出しを実行したいので、同月二八日までに保証人である被告の代表取締役の記名捺印をもらい、印鑑証明書を提出できるか否かを確認した上、同月二五日夕方、邨生支店長代理と共に、ツムラ商事を訪れ、伊東専務及び河合取締役に対して、借入条件を再確認した上、銀行取引約定書及び保証予約念書の所定の書面を渡した。

(7) 原告は、同年二月二八日、河合取締役から、ツムラ商事の代表取締役の記名捺印のある銀行取引約定書、同社の印鑑証明書、登記簿謄本、ツムラ商事及び被告の代表取締役の記名捺印のある保証予約念書、ツムラ商事及び被告の印鑑証明書及び登記簿謄本の提出を受け、同日、手形貸付の方法で金一〇億円の融資を実行した。

なお、右の被告の代表取締役の記名捺印及び印鑑証明交付申請書は、被告の社内手続に則るものではなかった。

(8) なお、原告は、平成六年八月二六日の日刊ゲンダイに掲載された「重大局面を迎えたツムラの“株価操作”疑惑」と題する記事の中で「ツムラの関係会社がツムラからの債務保証で六〇億円弱の融資を受けている」「この債務保証はツムラの役員会に諮られていない。」と記載されていること、同年九月一三日から一五日の日本経済新聞に掲載された「岐路に立つ同族経営ケーススタディー ツムラ」と題する記事の中で、平成五年秋にツムラ商事が中堅生命保険会社と信託銀行から借入れた五〇億円について、「関係者によれば『ツムラ本体が債務保証予約をつけた』という。これに対しツムラ側は『ツムラとツムラ商事は無関係であり、債務保証はしていない』(古屋専務)としている。」と記載されていることを知り、ツムラ商事に連絡して伊東専務及び河合取締役に来店を求め、平成六年九月一六日、邨生支店長代理及び向井課長において、伊東専務及び河合取締役に右の事実を質したところ、古屋専務が債務保証の有無についてコメントした事実はないとの説明を受けた。

さらに、向井課長らは、伊東専務に対し、被告の債務保証について、被告本社を訪問して、役員と面談した上、確認をとりたい旨伝え、同年一一月一五日、福田賀夫副支店長、邨生支店長代理及び向井課長がツムラ本社において古屋専務と面談し、同人から、被告がツムラ商事の一〇億円の債務について保証予約していること、同年七月からの日本経済新聞及び毎日新聞の記事の内容が事実ではなく、被告の業績が順調に推移していること等の説明を受け、被告の平成六年三月期及び同七年三月期の決算短信の交付を受けた。

(二)まず、被告は、原告が被告において本件保証予約をするにつき取締役会決議を経ていないことを知っていたと主張して、その裏付事実の一として、被告は、ツムラ商事の担当者が、本件融資に当たり、被告の取締役会において保証につき承認を得ることは困難である旨説明したことを上げるが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

また、右の認定事実のうち、貸出稟議書に「差引 △1000」と記載があることについて付言すると、右記載は、担保額をゼロ評価していることを意味しているということができるが、同書には「保証予約念書(1000)」とも記載されていることからすると、右「差引 △1000」との記載のみから直ちに、原告担当者が本件保証予約契約を無効として担保額をゼロと評価していたということはできず、単に未だ予約に留まることを示したにすぎないものと考えるのが自然であり、また、貸出の稟議補充書の記載については、併せて「今回ツムラ取締役会は開かれるが、社内規定により議事録は社外公表しない」との記載がされていることからすると、これをもって原告担当者が取締役会決議を経ていないことを前提として手続を進めたとういこともできない。

そのほか、原告担当者が、本件保証予約の締結に当たり、被告の取締役会決議を経ていないことを知っていたことを認めるに足りる証拠も、これを窺わせる事情もない。

(三)  次に、本件保証予約につき被告の取締役会の承認を経ていないことを知らなかったことにつき、過失があるか否かを検討する。

なるほど、前認定のとおり、ツムラ商事は株主構成の面からも役員構成の面からも被告と密接な関係にあり、ツムラ商事の担当者から交付された法人税確定申告書等やその説明、ツムラ商事の伊東専務と河合取締役の使用する名刺のマーク等が被告において広く使用されているものと同じであること等に照らして、原告において、ツムラ商事が被告の一〇〇パーセント子会社であると信じうる余地があり、本件融資についてみても、被告の前身である津村順天堂の創業一〇〇周年を記念する事業に係るものであり、その事業に関して、ツムラ商事の担当者から被告の作成に係る資料を交付され、相応の説明も受け、そして、何よりも、本件融資に先立ち、津村代表取締役の記名捺印のある保証予約念書及び印鑑証明書の提出を受けたことからすると、原告にあっては、被告が本件保証予約をするについて真実取締役会の決議に基づくものと考えたというのも肯けないではない。

しかしながら、これらの事情をもって直ちに、被告が本件保証予約についてその取締役会の決議を経ていないことを知りうべかりしときに当たらないとの証左とすることはできない。まず、被告とツムラ商事は密接な関係にあるとはいえ、本件保証予約のされた当時にあっては、被告は、ツムラ商事の株式一二〇〇株のうち二〇株保有していたにすぎず、それを明らかにする被告の有価証券報告書は、ツムラ商事の平成四年度の確定申告書及び帝国データバンクの調査報告書と齟齬し、この点に関し、ツムラ商事より代理店整理のために同社が被告の一〇〇パーセント子会社であるとの印象を避けるべく、右有価証券報告書において関係会社から外す表現をとったとするツムラ商事の担当者の説明も必ずしも自然ではなく、したがってツムラ商事の担当者らの行為をもって直ちに被告の行為と同視することはできない。しかも、本件融資は、不動産業等を業とする赤松からの紹介を端緒とし、その上、営業利益が六九〇〇万円、経常利益がマイナス四九〇〇万円とそれぞれ予想されるなど経済的な基盤が脆弱なツムラ商事に対する融資としては高額で、その担保として本件保証予約のほかにはないものである。これらの事情にもかかわらず、向井課長ら原告の担当者は、被告の内紛等の報道がされた後である平成六年一一月に至るまで、本件保証予約をするにつき、被告の担当者らに対し直接交渉することすらせず、取締役会の議事録についても、少なくとも被告の社内規定の存否については、容易に確認することができるのに、原告における取扱いの原則にも反して、被告担当者らに全く確認をとっていないのであり、そもそも向井課長ら原告の担当者において、本件保証予約につき、被告によって多額の借財に当たるものとして被告の取締役会の承認が必要であることを認識していたか否かについては疑問なしとせず、利益相反行為として取締役会の承認を必要とすることについても安易に考えていたとみる余地があり、したがって、原告においては、本件保証予約について、ひたすら主債務者であるツムラ商事の担当者の説明を軽信したとみることができる。そのほか前認定の諸事情によれば、被告において本件保証予約の締結につき取締役会の承認を経ていないことを容易に知り得たにもかかわらず、最小限必要な調査すら怠ったといわざるをえない。

以上のとおり、本件にあっては、原告において、本件保証予約について被告の取締役会の決議を経ていないことを知り得べきであったというほかない。

三  再抗弁について

株式会社の代表取締役が、取締役会の決議を経ることを要する取引行為について、その決議を経ないでした場合において、当該取引の相手方が右決議を経ていることを知り、又は知り得べかりしときは、無効であるというべきであるから(最高裁昭和三六年(オ)第一三七八号同四〇年九月二二日第三小法廷判決・民集一九巻六号一六五六頁)、この点に関する原告の主張は、失当である。

四  したがって、原告の主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

五  予備的請求に係る請求原因事実について

1  《証拠略》によれば、被告においては、代表取締役の印鑑を経理部に保管し、その押印手続については、要印文書を各部署において作成し、総務部を経由して社長室長に回付し、社長室長により押印を受けることとされ、押印の申出の結果は経理部において保管される「社印社長印請求簿」に、その押印の結果は社長室において保管される「社長印押印簿」にそれぞれ記録されていること、古屋専務は被告の社長室長を兼務しており、取締役会議事録及び「社長押印簿」の保管についての責任者であることが認められ、右の事実に前記認定事実を併せ考えるならば、津村代表取締役及び古屋専務は、ツムラ商事が当時経営利益としてマイナスを計上し、その返済能力が乏しいことを容易に知り得たにもかかわらず、本件保証予約について取締役会の決議を経ないで、共謀の上、自ら又はその部下をして、印鑑証明書交付申請書に代表取締役の印章を押捺して東京法務局から印鑑証明書の交付を受け、平成六年二月二八日ころ、右印章を用いて本件保証予約を証する旨の念書を作成し、河合取締役を介して右印鑑証明書及び右念書を原告に交付し、もって、原告をして、被告が真正かつ適法有効にツムラ商事の原告に対する債務を保証する旨誤信させて、本件保証予約をさせたものということができる。

そして、被告は、津村代表取締役らの右の不法行為による本件保証予約に基づき、保証人として、主たる債務者であるツムラ商事がその債務を履行しない場合にその履行すべき責任を負うことになるところ、前認定のとおり、ツムラ商事は、原告に対して、合計金一億五〇〇〇万円を弁済したものの、残元金八億五〇〇〇万円を支払わないから、原告は、右残元金相当の損害を被ったということができる。

2  ところで、前記認定事実によれば、原告は、被告との間で本件保証予約をするについて、被告が真実取締役会の決議を経たことについて、通常執りうべき措置を怠ったということができ、前認定の諸事情に照らし、その過失の割合は、右損害のうち三割に相当するものというべきである。

3  以上によれば、被告は、津村代表取締役及び古屋専務の不法行為に基づき、原告が被った金八億五〇〇〇万円の損害の七割に相当する金五億九五〇〇万円について、商法二六一条三項において準用する同法七八条において準用する民法四四条一項及び同法七一五条一項に基づき、損害賠償責任を負う。

五  よって、原告の主位的請求は理由がないからこれを棄却し、予備的請求のうち金五億九五〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成八年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の部分は理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条一項本文を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 門口正人 裁判官 小林元二 裁判官 松山 遥)

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